3年A組を見て-他者への想像力を持つことは難しい-

  日テレのドラマ「3年A組-今から皆さんは人質です-」が面白い。菅田将暉演じる教師・柊が担当する生徒たち29人を人質に取り、学校に立てこもる話である。

  柊は卒業式の10日前、生徒たち全員を人質に取り、学校に爆弾を仕掛け、立てこもる。

  3年A組の生徒だった影山澪奈が数ヶ月前に自殺した真相を暴くことが目的だと言う。

 

  柊が生徒たちを前に「最後の授業」を始める。一人一人が自分たちがしてきたことの意味を知り、自分の頭で考えるために。

  柊の本当の目的は何なのか。黒幕は誰なのか。毎週気になる展開が続き、予想を裏切るような話が続いてきた。もう来週は最終回である。嵐のことがショックでドラマを見れずに、だいぶ録画がたまっていたけどようやく追いつくことができた。まぁ一週間待つことなく一気に見れたから良かったかもしれない。

 

  柊は生徒たちに「Let's think.」自分の頭で考えて答えを出しなさいと教える。他者への想像力を持て、自分のやった行動でどうなるか考えなさい、と。

 

  それはもっともな教えだけど、他者への想像力を持ったり、考えて行動することは全ての人がやることはとても難しいだろうな、と思った。人はどうしても自分がその立場に立ってみないと分からない。他人がどんなに苦しくても、辛い境遇にいても、それは「他人ごと」であり、自分や身内が同じ状態にならないと本当には理解できない。

  それは当然だし、全ての人に感情移入していたら生きていけない。「他人の痛みを自分の痛みのように感じてしまう人」はとても生きづらい。みんな自分のことだけで精一杯だったり、自分の身を守ろうとすることは不思議ではない。

 

  しかし、無知や誤解や偏見で他人を傷つける人が多いことも確かだ。SNSが発達して誰でも気軽に発信できるようになり、自分の発言ひとつで誰かを傷つけたり、1人の人を追い込んだり、間違った情報で正義を気取って人を叩く。ネット上で匿名で行われていることなので、罪の意識を持ちにくい。

 

  このドラマはそういった人たち、特に若者に伝えたいメッセージ性の強いものになっているのだろう。それが確実に伝わって、感動したという若者の反応を多く見た。

  小さいときからスマホがあるのが当たり前で、ちゃんとしたメディアリテラシーを教わっていない人たちもいたのかもしれない。まぁ何を教えても響かない人はいると思うが。でも、無知から来る問題はこういう風に教えこめばちゃんと伝わるんだなと少し嬉しかった。

 

  こういったドラマがきっかけで社会が変わることもあり得るし、これからはネット社会も少しだけでも変わっていくのかもしれない。それがテレビドラマの良さだなぁと思う。

 

  柊先生の授業を聴けなくなる、3Aの生徒たちに会えなくなることは寂しいけど、最終回も楽しみに待ちたい。

 

  

 

  

 

  

 

 

「獣になれない私たち」感想

 ドラマ「獣になれない私たち」が最終回を迎えた。

  このドラマの主人公深海晶(新垣結衣)は、仕事ができて周囲からの信頼も厚いが、常に周りに気を遣って、自分の気持ちを押し殺して生きている。京谷(田中圭)という恋人がいるが、彼は元カノと一緒に住んでいる優柔不断な男性。

  晶が行きつけの店で常連客の恒星(松田龍平)と知り合い、恋になるかも?という話で、最初はラブコメなのかなと思っていた。

  しかし、初回は晶が会社の社長にパワハラを受けるわ、土下座させられるわ、電車に飛び込みそうになるわでかなりしんどい話だった。

  全体を通しても、恋愛が主題というよりは「生きにくい人たちがどうやって自分らしく生きていくか」みたいな話で、ラブストーリーというよりは、人間ドラマといってもよかった。

 

  このドラマ視聴率が悪かったらしいけど、勧善懲悪とか分かりやすい物語が人気がある中で、ちょっと分かりにくさはあったし、何より初回のハードな展開で離脱した人が多かったんじゃないか。

 

  晶の「周りに気を遣いすぎる、断れない、期待に応えようとしてしまう」という性格に共感する人は多かったみたいで、私もそういうところはあるなと思った。もちろんあんなに仕事もできないし、コミュニケーション能力もないけれど。

  ただ、私の場合はあんな状況に追い込まれたら、うつになって会社に行けなくなって、退職せざるを得なくなるんじゃないかなと思う。その分晶は強いのか、行きつけのお店があってビールが息抜きになってるから大丈夫だったのか(私はあまり飲めないので)

 

  晶のような状況に陥ってしまう人、実際たくさんいるのだろう。「ドラマのような社長は実際にいる」という意見をけっこう見かけた。理不尽な状況でも耐えて、がんばって、心をすり減らしていく。状況を変えたいと思ってもその勇気もなく、声を上げることもできず、何がやりたいのか分からないまま、ただ毎日を過ごしている。そんな人はきっとたくさんいるのだろうと思う。

 

  ドラマの内容はリアルで、なんだか苦いビールを飲んでいるようだった。劇的な展開があって、都合よく物事が解決するようなことはなく、地味に、少しずつ、勇気を持って、自分の人生を変えていく物語。

  人間は少しずつしか変われないし、自分を変えようと思わなければ変われない。実際に変わるときはゆっくりしか変われないのだ。

  人のせいにしていても、自分の人生は自分でしか変えることはできない。それには勇気が必要なのだ。

 

 それにしても最終回はよくまとまったなぁと思った。最初の方は見ててしんどかったし、最終回でまとまるのかなぁと思っていた^^;最後まで見たら面白くて、見続けてよかったと思った。

 

  このドラマは恋愛ものではないと言ったけど、恋愛や形にこだわらない人間同士の関係を描いたところが良かったと思う。今の時代だからこその恋愛ものを見たいという気持ちもあるけど。

 

  最近のドラマは昔とは違って複雑になっていたり、繊細なテーマを扱っているものが増えている気がする。個人の生き方が多様になってきて、ドラマのテーマもそれに合わせて変わってきていると思う。

  その傾向はきっとこれからも強くなっていくんじゃないだろうか。もっと自分らしく、ラクに、個性を認め、互いを尊重するような、そんなドラマが出てくるんじゃないかと予想する。

 

 

 

 

 

  

NHK土ドラ「フェイクニュース」を見て

NHK土曜ドラマフェイクニュース」前後編を見た。主演は北川景子、脚本は野木亜紀子である。

非常に面白いドラマだった。ネットメディアを題材にして、今の社会の問題を描き出している。私が日頃からネット社会に対して感じている苛立ちやモヤモヤ、問題などを痛快なほどにドラマに盛り込んであり、とても見応えがあった。

話はカップうどんに青虫が混入していたことをSNSでつぶやいたことから始まり、物語は二転三転し、今のネット社会の問題点、情報がすごいスピードで拡散されていくことの恐ろしさ、正義とは何か、ネットができることの役割など、いろんな要素が詰め込まれ、かつエンターテイメント性も高く、ドラマとしても先が読めない面白さがあった。単純な善悪の結論を出さないところも良かった。

物語の中で、主人公東雲樹が勤めるネットメディアの会社の編集長が言う言葉が印象的だった。

「みんな真実なんてどうでもいいんだよ。自分に都合のいい情報だけ信じるんだ。信じたいことしか信じないんだよ」

日頃ネットのコメントを見ているとそれは本当に強く思う。何が真実かはどうでもよく、自分の信じたいことを信じようとする。もし間違いが訂正されたとしても、それが自分にとって都合の悪いことなら拡散しない。間違った情報が多く拡散され、それが残り続ける。それは悪いことだと分かってやっているのだろうか。それとも踊らされているだけなのだろうか。ネットを使う側のリテラシーも問われている。

ネットだとどうしても刺激的な言葉が注目を集め、話題になったものが勝ちというようなところがある。それに対しては私もモヤモヤするところがあり、このドラマではうまく形にしてくれたと思う。

どうしても人は自分が注目されたい、承認されたい、自分の味方をしてほしい、物事が自分の都合のいいようであってほしいという気持ちはある。正義で人を裁きたくなることもある。しかし、ネットではその気持ちが増幅され、罪の意識が薄れ、取り返しのつかないことになる、という怖さ。間違った情報を流すのも、拡散するのも犯罪である。表現の自由だ、などと言う人がいるが、誹謗中傷も犯罪にあたることもある。

ドラマの方は、単純なハッピーエンドで終わらなかったが、ネットの悪いところだけでなく良い点も描いていた。「今の社会は今までのテレビや新聞などの古いメディアが作りあげたのかもしれない。しかし、私は真実を伝えたい。真実を知りたいと思っている人もたくさんいるはず」という東雲記者に熱くなった。

実際はネットで偏ったコメントをしている人なんてほんの一部かもしれない。本当は多くの人が真実を知りたいのかもしれない。 間違いと分かっている情報を書き込むことも、間違えた人を執拗に叩き続けることも、普通の感覚だったらできないはずで、ごく一部の人たちの悪意に踊らされているだけのかもしれない。過剰な言葉が取り上げられて、話題になるネット社会はなんとかならないかなぁと思う。 ネットは社会の一部であり、すべてではないこともきちんと認識していたい。

真実はどんなに信じたくなくても真実である。感情に任せて強い言葉で書き込んだりせず、冷静に相手に分かるような言葉で議論をする。どうしても人は感情に流されるので難しいことだけど、そうすればネットはすごく有意義で素晴らしいものになるだろうなと思う。

「半分、青い。」総評

朝ドラ「半分、青い。」についてはこの前書いたので、それで終わりにしようと思っていたけど、最後の方で相当アンチの批判の声が大きくなったので、いろいろと書きたくなった。

今回アンチは本当にひどく、楽しく見ていた自分は相当なダメージを受けた。

普通のドラマではそんなことはないので、朝ドラというのは熱烈なファンがいるんだなと思った。

「受信料払ってるから」と言うけど、王道の朝ドラが嫌いな人だって受信料は払っている。いろんな人がいてみんなが見ているんだから、いろんなタイプの朝ドラをやった方がいいと思う。

だいぶ放送終了から時間が経ってしまったけど、まとめを書きたい。

鈴愛はよく「共感できない主人公」と言われたが、私は共感するところが多かった。

もちろん彼女のように言いたいことは言えないし、私は周りに合わせてしまうタイプなのだが、本質的には鈴愛みたいなところがあり、憧れがあったのだと思う。

私も鈴愛と同じで田舎出身で、心配性の母がいて、東京で夢を叶えたいと思っていた。

しかし結局夢を諦めて、田舎で就職した。

だから鈴愛の漫画家になるという夢に向かって突き進む行動に、心の奥がヒリヒリした。

しかし鈴愛は漫画家に挫折する。

良くも悪くも話題になった挫折シーンで、鈴愛は叫んだ。

「私は今年で28だ。恋人もいない、結婚もしてない。仕事もどん詰まり。私には何もない!!」

私も30前くらいの頃、同じように思ったことがあった。恋人もいなくて結婚もしていない、仕事もうまく行かず、続けるか辞めるか悩んでいた。

鈴愛は友達のユーコやボクテにも当たり散らす。

批判されたシーンだが、私も友人が結婚したとき、自分と比べてひどく落ち込んだことがある。鈴愛の気持ちは良く分かった。

鈴愛は自分勝手に生きているように見えて、意外と世間の評価にとらわれているのかなと思った。

「この年だったら仕事も独り立ちして結婚してるのが普通なのに自分はそれができていない」ことに対して焦りがあるのかなと。

私も世間で言われる普通のことができなくてずいぶん苦しんで、必死に周りに追いつかなきゃと思っていた。今は自分は自分でいいやとだいぶ思えるようになったけれど。でも、まだ世間の評価に苦しむときはある。

このドラマは「回り道をしても自分らしく生きよう」というテーマがあったと思う。

「七転び八起きで最後にそよ風ファンを発明する」という物語である。

「仕事の描写が雑」という指摘があったが、漫画家の描写を丁寧にやる必要はあるだろうか。

伝えたいテーマは「挫折から立ち上がり、強く生きていくこと」だとしたら、漫画の描写そのものを丁寧にやる必要はないと思う。

今の時代はネットを使えば「おひとりさまメーカー」のようなことは簡単にできる。「人とは違う発想」や「ほかにはない商品」は価値を生む。

働き方も多様化して、1つの会社にずっと勤める時代でもない。

だとしたら試行錯誤しながら自分らしく生きる道を探すことは今の時代に合っているのではないだろうか。だからこそこのドラマはこれだけ高い視聴率を取ったんじゃないかと思う。

このドラマを作ってくれた北川先生、制作スタッフの皆さんには感謝したいと思います。

お疲れさまでした!

朝ドラ「半分、青い。」について

朝ドラ「半分、青い。」は賛否が非常に分かれる作品のようで、擁護派と否定派がSNSで攻撃しあったりなどして荒れている。

私はこの朝ドラはけっこう好きで見ていたが、批判されればされるほど応援したくなり、今ではすっかり擁護派になった(あまのじゃくだが)。

批判派としては、主人公の鈴愛が漫画家になったが、挫折して100円ショップで働き始めたり、結婚して離婚したり、何がやりたいのか分からない。

口が悪いし空気が読めない鈴愛の性格が嫌い。

差別的な表現がある。

という感じだろうか。

確かに一般的な朝ドラの主人公は謙虚でいい子で、夢に向かって努力して何かを成し遂げるものなので、この朝ドラは変わってると思うし、好き嫌いが分かれるのも分かる。(脚本の北川悦吏子さんのツイッターでの言動が批判されてるのもあると思うが)

私がこの朝ドラを好きなのは、先の読めない展開と、人生は失敗してもやり直せるというメッセージと、登場人物のセリフや行動がリアルだなと思えるからである。

人生は上手くいくことばかりではない。 鈴愛は漫画家になるが、自分の才能の無さに気づいて挫折する。 現実では夢を叶えたとしても、続けられない人も多いだろう。多くのドラマは夢を叶えて成功することを描いているが、このドラマは挫折を描くのだ。 その後も結婚するが、夫が映画監督になりたいと言って振られたり、会社に入るも倒産したり、発明の会社を立ち上げるも上手くいかなかったり、いろんな経験をし、遂には扇風機の発明をする。 漫画家時代に勉強したことが役立ったり、今まで経験したことが活かされる。それが人生だなぁと思う。今までの経験で無駄なことは何もないよ、人生は失敗してもいいんだよ、やりたいことをやるのに遅すぎることはないよ、と言われているようで嬉しくなる。 朝ドラというのは1人の人生を描くものだ。人生とは挫折や挑戦をくり返し、自分なりの生き方を見つけていくものなのだろう。それは自分の生き方が自由に選べる現代だからこそできることだ。 1人の人生には挫折も失敗もある。そのときは辛いと思っても、永い目で見ればあの経験は良かったと思うこともある。私は半分、青い。は、そういうことを描いている朝ドラだと思っている。鈴愛は不器用に生きている1人の人間であり、その人生を描いている。 鈴愛の性格については、今の時代はいい子でいれば上手くいく時代ではない。むしろ我慢強くていい子は心の病気になったりする時代である。 私はずっとワガママを言わず、怒ったりせず、周りの人に悪く思われないように行動し、自分のやりたいことも分からなくなった。そしてうつ病になった。 それからはなるべく周りのことを考えず、自分のやりたいことを少しずつやるようにして、感情を素直に出せるようにしてきた。そうやって自分を大事にして、自分の心を守ることが大事な時代なんだと思う。 「そんな人が増えたらみんながワガママになって大変なことになる」と言うのは杞憂で、今まで周りのことばかり考えてきた人が急に自分勝手になることはなく、周りを気にしすぎる人は自己中になるくらいでちょうどいい。 生きていくには逞しさと強さが必要なのだ。

鈴愛の性格や行動が素晴らしい、真似したいとは思わないが、鈴愛の強さは見習いたいところはある。鈴愛は平成のヒロインらしいヒロインなのではないだろうか。 半分、青い。が終わるまであと一週間。最後まで気の抜けないドラマだが、最後まで楽しみたい。